楊口から束草へ

 バスは、空港のリムジンバスの印象があり不安で一杯だ。行き先は終点の束草だが、街はずれの高速バスターミナルと街中の市内バスターミナルのどちらに停まるかも分からない。今度こそ素早く対処できるように入口に近い最前列に座った。ちなみに、右側通行の韓国ではバスの入口は右にある。
 やがて、ファイルの様なものを持った一般人のような女の人が乗ってきて切符を回収しだした。そのおばさんはそのまま乗って、バスはスタートした。1kmほど走ったところでバスが突然止まり、このおばさんはファイルを置いて降りていった。とくに停留所や事務所のような所は見あたらないのだが...。
 昨日歩いた懐かしい道を通り、楊口大橋を渡ったあとは、バスはとろとろと田舎道を走る。さすがDMZ(南北軍事境界の非武装地帯)近くの土地である。主要な交差点には検問があって交通整理と通行車両のチェックをしている。ある検問では、ライフルを持った軍人が乗り込んできた。客席をチェックしたのか、後ろにのっている軍人と何か連絡をしたのか?軍人が降りると挨拶をしてバスは発車した。小さな町をいくつか通り過ぎて、やがてバスは五色温泉に向け、どんどん高度を上げていく。
 途中、女子学生が手を挙げて乗り込んできたりして、韓国ではどこからでも乗れるのか?途中から乗ってきたおばあちゃんが私の横に座った。その後しばらく走り、運転手が振り向いて、このおばあちゃんに何かを言った。おばあちゃんは、あわててシートベルトを締めた。見まわすとみんなシートベルトをしている。「あぁ、バスではシートベルトをするのか?」と思ったが、結局私が注意を受けることはなかった。韓国のバスのシートベルトが2点式なのは日本と同じだが、接続部にベルトを巻き込む方式で重たい。
 やがてバスは最高高度(標高約900m)の峠を越え、五色温泉を通過した。二日後に行く場所なので目を皿のようにして周辺の地理を記憶した。といっても森の中に点々と建物が見える程度である。その向こう(南)には雪嶽山の南にそびえるチャンボン山がみえる。日本の瑞牆山のような岩峰がニョキニョキと生えていて爽快な景色である。明日の雪嶽山登山が楽しみである。
 やがてバスは大きな街に着いた。襄陽(ヤンヤン)である。とは言ってもハングルだらけで確認はできない。「ヤンヤン・・」と書いた看板なども、いざとなるとなかなかないものだ。ここにも楊口と同じようなバスターミナルがあって、今度はおじさんが乗り込んできて、ここから乗車する客のチケットを回収する。このおじさんは回収が終わると降りて、バスは出発した。
 やがて、仁川以来に久しぶりにみる広い海が見えてきた。東海(トンヘ:日本では日本海という)である。この向こうに日本があるんだ..と久しぶりに郷愁に浸る。でも、海岸の景色で大きく日本と違うのは海岸線に連なる有刺鉄線付きの金網である。すなわち海岸線にひょいと車を止めて砂浜を走るって事はできないわけだ。ここには休戦中の北朝鮮の国境に近いという現実が存在する。
 もうすぐ束草というところで、双川を渡ると大きな三叉路があり、海側にインフォメーションセンターもある観光ターミナル(左写真)がある。ここから山に向かう道が、韓国最大の山岳観光地雪嶽山への道であり、明日はここから雪嶽山に向かうこととなるのである。
 大きな高層マンションが見え始め、いよいよ束草だなと感じられる。まず高速バスターミナル(だと思う)にバスは止まり、まだ先に行きそうなのでそのまま乗っている。青草湖畔をしばらく走ると、99’国際観光博覧会のオブジェのような施設、ガラスの多面体の建物と螺旋を巻く象徴塔がみえる。それからバスは海岸線を離れ、丘を登っていく。大丈夫かなと思いつつ乗っていると、楊口より一回り大きいバスターミナルに到着した。ここが束草市街バスターミナルである。隣のおばあちゃんがちょっと難儀してたので、シートベルトをはずしてあげる。

   2002' 8/24