五台山を下山

 頂上のすぐ下の登山道には、いろいろな高山植物が咲いている。シャジンやトリカブト、シオガマ、ハクサンフウロなど日本でおなじみのものの他、、オレンジ色のオオビランジに似た花、名前は分からないが黄色いラッパ状の花を付ける双子葉類などが咲き乱れている。花の好きな人にはたまらない山であろう。
 雨も降りそうなので、早々に下山する。しばらく降りるとやっと登ってくる人に会う。分岐から出たったはじめての人だ。登りでは見かけなかったシマリスも見かけるようになった。人の気配がしてから登山道に近づくのかも知れない。
 少し下ったところにある頂上まで500m地点に立つ表示板は標高1300mになっているが、あまりに高度差がありすぎる。本当ならそこから頂上(1563m)までとんでもない傾斜になることはすぐに分かる。よくみると、1350mと小さい字で登山者が書いている。頂上で合わせた私の高度計では1380mなので、鉛筆でそう書いておいた。
 鞍部には11:35着。このあたりは、よく見ると林の下草としてハクサンチドリのような赤いランが敷き詰めるように咲きまくっている。だいぶ暗くなった下山路をどんどん下り、水場で水を飲む。登るときは気づかなかったが、井戸のようになっている水場の底は玉石が敷いてあってそんなに深いわけでもないのにそこからこんこんと水がわき出ている。そこからさらに下ってサジャ庵の上の分岐まで来た。そこからは、朝登ってきた沢に降りる下山路と、まっすぐ上院寺の方に向かっている道がある。表示板にも上院寺と書いてあるようなので、そこを下ることとする。
 しばらく下ると、下から黄色のバッチをつけた登山者の群が登って来だした。20〜30人くらいのと思ったらどっと押し寄せてきて、朝の静寂が信じられないほどの混雑の光景となった。その道はまっすぐ下の車道に降りているが、途中に上院寺の方に向かう歩道も分岐している。そこを下って、上院寺に向かう。
 上院寺(サンウォンサ)は、五台山の上院寺は月精寺とともに新羅の善徳女王時代に慈蔵律師(新羅時代の高僧)が建立した寺で、1946年に戦乱の中焼失し、1947年に新たに再建されている。特に銅鐘は、新羅の聖徳王4年に造られた高さ1.67m、 直径91cmの韓国で最も古い梵鐘(国宝第36号)で、その音が美しいことで有名だそうだ。その鐘の下を通る形で寺に入る。やはり寺としては新しく、奥の院は今なお工事中で銅の屋根が美しい。韓国の寺は緑を基調とした極彩色で屋根も沿って曲線の美しさが建物には感じられるが、庭の木々や石、歩道など足元がアンバランスで、なんとなく落ち着かない。ひかえていたバスの時刻がもう少しなので、特に拝むこともなく写真を数枚撮って下ることにした。下ろうとして驚いたのは、寺へまっすぐ登る階段が50cm以上もの丸石でできていることだ。それは老人には過酷な階段で、這うようにまさに岩登りのように、またはゾンビのように登ってくる者もいる。
 12:30過ぎ、下のバス停まで降りる。カメラのフィルムも切れたので、土産物屋でカメラを買う。ちょっと高いかなと思ったらパノラマも撮れるカメラである。よく見ると他はハングルなのにパノラマという字はカタカナなのである。ということは日本製なのか?まさか日本観光客向けというわけでもあるまい。
 バスは広場で停まっていた。一本道だけどもしかしたら峠を越えて行くバスがあったらいけないので、一応「ウォルサンシカヨ?」と聞いて確認してから乗り込んだ。700w(チルベゴン)を言われるまま支払い座ったが、このあたりの写真を撮ってなかったことに気づき、一度降りて写真を撮ってから再び乗り込んだ。客は数人しか乗っていないが、バスは時間通り出発した。バスの運転手は、横に靴入れのトレイを置き、底にしっかりかかとを踏みつぶした靴を入れ、運転は白いサンダルである。日本なら一般ドライバーでも安全運転義務違反なのだが、なかなか堂に入っている。写真も一応撮ったが、残念ながら暗すぎて写っていなかった。月精寺までの横ギャップの道もバスのサスがついていけないため、音こそ賑やかだが、快調に走っていく。舗装道路になってバスがいきなり停まり、「ウォルサンシ...」と私の方を振り向いて言った。「カンサンニダ」と勇んで降りた。

   2002' 8/27