毒ヘビに注意!  (令和元年6月改)

 梅雨になってじめじめした日が続きます。
 町外から来られた方に意外と知られていないのが、佐田岬半島はマムシがやたら多い地域ということです。私は日本全国の山や川をかなり歩き回っていますが、この地域ではマムシを日常的に見かけるのでびっくりしました。「ハメ」とも呼ばれるマムシは猛毒のへびで、対応を間違うと命にも関わるこの地域の身近な自然のリスクなのです。
二名津の昔話の中にはマムシを大量に捕って天皇陛下から褒美をもらった話も伝わっており、話半分としてもかなりのマムシが生存していることは確かなようです。

 私がよくマムシを見かけたのは、伽藍山(オチリ水周辺から体験農場周辺)、二名津から名取へ向かう大谷越えの登り、釜木の上の集落です。マムシの主食はネズミで、川ぞいや水場のじめじめしたところのネズミの通り道や石垣のすきまに陣取っています。後で述べるように運動能力の低いヘビなので人間を積極的に襲ったりすることはありません。多くの被害は出会い頭かうっかり踏んづけるパターンなのですが、石垣などではたまに飛び降りるという不思議な行動が見られつので、頭上からの攻撃にも注意しましょう。右の写真は小学生が遠足で釜木の道を歩いていると頭上から降ってきた子ども大好き?マムシです。

 写真の通りマムシの体はずんどうで大きくてもせいぜい1m程度です。とにかく運動能力が低く目も悪いので、出会うと素早く逃げられないので、すくんだ状態で固まるおデブのヘビということで容易に判別できます。三角の頭や模様も独特ではありますが、細長いヘビがスルスル逃げている場合はマムシではありません。
 さて、そんなマムシは体が伸びているときはなさけないほど無防備で鈍くさいのですが、とぐろを巻いて攻撃体勢をとるととなると要注意です。個体差はありますがある程度ジャンプ攻撃ができるからです。目は悪く視点も低いので、舌を盛んに出して赤外線(体温)を探知し肌が露出している部分を察知します。そこへめがけて毒牙を打ち付けるように攻撃するのです。私も杖などを温めていろいろ実験しましたが、やはり人間に対して攻撃するというより温かいものめがけて攻撃してきます。どうもプレデターのように見えている様子です。私は大洲の山仕事をする人から「マムシに会ったら人間との間合いを覚えるので被害がなくとも次にあった人が被害に遭うので必ず殺せ!」と教わりました。もっともな御意見なので原則としてそのように行動しています。しかし、地域の生態系で大切な役割を持っているのでむやみに殺すのは考えものだとも思っています。

左写真はマムシの毒牙です。毒歯は注射針の構造をしていて攻撃状態で口を開けるとせり出すようになっています。それを引っかけるように皮膚に突き刺し毒を注入するのです。これら一連の動作はなかなか素早く一端攻撃されるとダメージも大きいのでむやみに近づくのは危険です。というより、ほとんどの被害はマムシを捕まえようとして起こるようですので、安易に挑戦しないようにしてください。マムシは、泳ぎも苦手で川の増水などでまとまって流されてくることがあるそうです。二名津に住んでいたとき大雨の後で河口のコンクリートの階段のところでうずくまっているマムシの子を見つけたことがあります。さすがにこのときは即座に殺すことはためらい上流の山に逃がしてやりました。

 私は最初のうちはマムシのホルマリンづけの標本をつくって校区の小学校に配っていましたが、たくさん捕れるのでそのうちマムシ酒を作ってみようと思いました。写真のように数日水につけて消化管をものを出させます。そしておもむろに焼酎(このときはホワイトリカー)につけます。しばらくは生きていますがこうなると一日も持ちません。その後数年経てば滋養強壮に効果のあるマムシ酒のできあがりです。私のつけたマムシ酒で最も古いのは風早の高縄山山頂で捕まえた大きなマムシで、もう漬けて30年以上になり琥珀色からさらに黒っぽくなっています。しかし味はあまりにもまずく、よほど悪い病気でもしない限り飲むことはないと思います。

 さて、まむしの毒は出血毒で組織を破壊する強力なものだそうです。治療用の血清はあるのですが副作用も強いそうでよほどひどいときしか病院では血清は使わないのだそうです。私は経験がありませんがマムシに咬まれたときは毒を吸い取ろうとする人がいます。その場合口の中に傷があった場合はより深刻な被害を受けるのでかなり注意です。また、咬まれた腕や足を強く止血するのも患部の壊死につながりますので、軽く止血して落ち着いて速やかに病院に直行しましょう。

 なお、マムシより身近にいるヤマカガシも毒ヘビとして知られています。ただ、ヤマカガシの毒牙は小さく口の奥にあり積極的なかみつきによる被害はほとんどありません。しかし血清もなくコブラと同様の強い神経毒なので要注意(死亡例もある)です。ヤマカガシはなかなか機敏で攻撃的なヘビです。どちらかというと毒を敵の目に向けて吹き出す攻撃の被害が多いようです。私はそれと知らずに子どもの頃ヤマカガシを捕まえては振り回していました。あぶないところでした。
 さて、街中でマムシとそっくりの模様を持つ小さなヘビが時々見つかり大騒ぎになることがあります。それは右写真のアオダイショウの子です。なんと逃げ場がなくなり興奮すると頭を三角に変形させとぐろを巻いてしっぽの先をふるわせて威嚇します。これは毒ヘビのマムシとそっくりです。マムシも同じクサリヘビの仲間のガラガラヘビのようにしっぽを振ります。アオダイショウの子のこのはったりはなかなかの擬態ですが、細長い体型をしていますのでマムシとはすぐに区別ができます。以前二名津小学校の校庭でこの写真よりもっとまむしに似たアオダイショウの子がいて大騒ぎになったことがありました。そのころはもしかしたら?とも思ったので子どもには触らしませんでしたが、捕まえて咬ませてみました。毒牙はないので何も心配はなかったのですがその必死の攻撃に、こんな小さなヘビにも生き残るための面白い知恵が授かっていることが驚きでした。
 今回の内容はちょっと物騒でしたが、いざ被害に遭うと対応の差で大きな違いが出ますので、マムシの多いこの地域に住む人の常識として認識を深めてほしいのであえて取り上げました。