和尚様むかい

 今から60年ほど昔の話です。松の「おまつごえ」という所に、たいそう仲の良い夫婦が住んでいました。
 この夫婦は互いに助け合いながら80歳近くまで生きていましたが、亡くなる時は後を追うように続けて亡くなったそうです。そのため、「お葬式も夫婦いっしょにしよう」ということになりました。

 そして隣近所のいの松さんと、とく松さんはお葬式をするため、和尚様を迎えに三崎まで行きました。
お葬式は4時からなので二人はお葬式に使う道具を持って松まで帰り始めました。
 三崎と松を結ぶつん越え道は、三崎地域でも最も高いところを通る生活道です。その一番高いところが伽藍山山頂の北側にのびる尾根にあるのつん越えと呼ばれる峠です。

 このつん越えで二人は和尚様を待っておこうと思い横になっていると、いつの間にか「ぐーすか、ぐーすか」と眠ってしまいました。ふと目を覚まして辺りを見回しても、和尚さんはまだ来ていないようです。
そのまま待っているのはつまらないからということで、二人はなんと持ってきた葬式の道具で「葬式ごっこ」をし始めたのです。和尚さんはというと、実は二人が眠っている間につん越えをとっくに通り過ぎていたのでした。

 松に着いても、その二人はいません。葬式の道具もありません。何もできない和尚さんはまた、さっき来た道を引き返しました。すると、松のつんごえの辺りで、「チャリーンチャリーン」という音となにやらお経らしきものを唱える声がするではありませんか。その音のする方へ行ってみると、なんとその二人が道具を広げて「葬式ごっこ」をしていたのでした。

 和尚様は、
「葬式の準備はしとらん・・時間には間にあわん・・葬式の道具を遊びに使う者がおるか。」
など、たいそう怒ってぶつぶつ文句を言っていたそうですが、何とか無事お葬式はすんだそうです。


  出典:二名津中学校「郷土の昔話」・・・平成3年度 大垣春子(松79歳)伝,編集:(5413)