お薬師盗人

 昔、昔のお話です。
 ある夜、明神にあるお薬師堂という寺にどろぼうが入って、仏像を盗みました。
そのどろぼうは、仏像を持って薬師堂から出て、
「やった。高価な仏像をぬすんだぞ。」
と喜び、急いで山道を歩いたり走ったりして逃げていったそうです。

 そして、朝が近づいて辺りが明るくなり始めた頃、もう十里もきたところだろうと立ち止まりました。
ところが、どろぼうは辺りを見回してみてびっくりしました。
どろぼうが十里もきただろうと思っていたこの場所は、どろぼうが仏像を盗んで外に出た薬師堂の前庭だったのです。
 結局、どろぼうは一晩中お薬師堂の庭をかけずり回っていたということなのです。

 またこんな話もありました。
ある泥棒が薬師堂からお薬師様の仏像を盗み、背負って逃げていると、
「盗んではいけない」
「盗んではいけない」
と背中の仏像から声がするのだそうです。
どろぼうはその声を聞いているうちに反省して、薬師堂もどしたのだそうです。


  出典:二名津中学校「郷土の昔話」・・・平成2年度 中村ハツ子(明神63歳) 平成3年度 神元ハル(明神82歳)伝,           編集:ねず(5115)