くじらの恩がえし
昔、二名津に幸吉という人がいました。
働くことが好きで、正直で誰にでも親切な男でしたが、あまりお金がありませんでした。
それでもぐちをこぼすことなく、まじめに楽しく暮らしておりました。
ある晩のことです。
部落の寄り合いがあった帰り道、あまりに月がきれいなので、幸吉は遠まわりになる海岸の道をとることにしました。
風もなく海は静かに凪いで、ほのかに赤い月がいまにも西の波間に落ちそうでした。辺りに人のいる様子もなく、音といえば砂浜に小さく打ち寄せる波の音と、幸吉の砂を踏む音だけでした。
幸吉はしばらく歩きました。するとその時、砂浜の向うのほうになにやら赤ん坊の泣き声が聞こえます。
不思議に思った幸吉がその声のするほうに行きますと、驚いたことにそれは小さなくじらでした。病気にかかって弱っているらしく、泣く声にも元気がありません。それでも苦しい思いをしながら幸吉に「助けて下さい。」となさけを乞いました。
幸吉はもともと優しい男でしたので、さっそく家にかかえて帰り看病してやりました。
しかし、幸吉のあたたかい看病のかいもなく、死んでしまいました。
そして、いまわのきわに幸吉にこう言い残しました。
「いろいろ親切にしていただきありがとうございました。わたしはもうだめです。わたしが死にましたら、わたしの体から油をくんで下さい。
それは七月七晩ですが、その間はけっしてくむのを止めないで下さい。これはお世話になったわたしのお礼です。それから人に親切にすることを忘れないように・・・」
不思議なくじらとの出会いでしたが、くじらの言い残した言葉通り、くんでもくんでも油が湧いて出て幸吉は豊かな生活ができるようになりました。そしてその後も幸吉は人に親切にすることを忘れなかったので、幸吉の家はますます栄えたということです。
出典:二名津中学校「郷土の昔話」・・・平成6年度 石井トクヨ(二名津69歳)伝,編集:ハリー(5116)