ところで、この家のご主人、大の狩り好きで、家のことは指を全部折っても数えられないほどの女中と下男にまかせて、毎晩、趣味で鉄砲を片手に猟に出かけたそうな。なんともリッチな話だとは思わねいかい。
そのお屋敷に、一匹の大猫がいたそうで、なんでも重さは一貫目を超えるという。おっと、一貫と聞かれてもピンとこないだろうね。現代人にはキログラムでいうとだいたい3.7kgぐらいかなのう。
まあ、そんな大屋敷に住み着いていて太らないというのが無理な話だけどねえ。しかし、ここまでくると化け猫だね。
当時は鉄砲で使う玉、こいつは自分で作っていたそうで、その大猫は、主人が鉛の玉を一つこしらえるごとに首を振って数えていたそうな。いいもの食っているとおつむの方も肥えてくるのかね。
玉を作り終えたご主人、さっそく山へ狩りに出かけたそうで、何とも気の早い主人だね。
ところがどっこい、その主人、なかなかの鉄砲の名手で、その夜も獲物をみつけたので、すぐさま鉄砲を撃って当てたそうな。ところがその獲物「カツーン」と音がするだけで、いっこうに倒れない。
主人はこれは危ないと思ったころ、持ち玉が切れてしまったそうな。
そして、闇から甲を装った怪物が飛び出てくると思いきや、鉄瓶をくわえた大猫が襲ってきた。
その後はどうなったかって。主人はやられた!と思ったが、どっこい、その大猫を重の鉄砲の一発でしとめたんだそうだ。
主人は「かくし玉」というて、普通は使わない玉をもう1発だけふところに持っていたんじゃ。それをこめて猫めがけて打ったんじゃそうな。弾がなくなったと思った猫は、主人のまん前まで来ていたもんだから外しようもなかった。
心臓に見事に命中し、猫ははもんどり打ってぶったおれたそうな。
しかし、よく見ると倒れたその猫、自分の飼い猫だったのに主人もびっくり。
あの賢い大猫は主人が弾をいくつもっているか数えて知っていて、弾がなくなるまで鉄瓶でかわし、なくなったとたんに襲いかかったんじゃな。さすがに賢い猫も、隠し玉には気づかんかったと見える。
猫は老いると化け猫や猫又になるという伝説があるが重さも関係あるのかね。この事件以来兵頭家で猫を飼うときには、体重が一貫目を超えないようたいそう餌には気をつかったそうな。
ちょいと話が長くなっちまいましたが、おいらの伯母から聞いた不思議な不思議な昔話はこのへんで。お後がよろしいようで。