城山里の夕べ

2Fの玄関で、「ヨギヨー」と2度ほど呼ぶと、60歳くらいの主人が出てきた。韓国語で部屋の有無をたずねたが、どうも日本語が通じるようである。奥の部屋を見せられた。民宿というので普通の部屋かと思っていたが、ちょっと狭くて風呂がない(シャワーがある)他は旅館とかわらない。3万w?(これも旅館並)を支払って荷物を置き、城山里の街の散策に出る。
 まず、海岸線に出てみた。街の東は放牧地?のようで、海岸崖の上に草原が広がっている。その草原から振り返ると、写真のように北壁を露わにした日出峰が雄々しく迫ってくる。海岸近くには一辺が5mほどの石垣の囲みがある。覗いてみると中には二つの石棺のような物がある。説明板はハングルでよく分からないが「祭」という漢字もあったので、祭式のための施設なのだろうか。草原の北には野菜畑があり、その向こうには有刺鉄線を巻いた物々しい塀がある。その中にはKBSと、通信用(レーダー?)のアンテナ群が立っている。ちょっと近づいてみたが、近くの家から犬(放し飼い)が出てきて、吠えたてるので退散することにした。
 再び車道に出て港の方に向かう。補助輪がついたような不思議な単車(写真)が止めてある。KBSに近づいてみると建物の上から監視カメラが数台睨んでいる。いったい何を厳重に守っているのだろうか。「よぅそいらっしゃぃませ」と韓国特有の高さのそろわないひらがなで書かれた日出峰ホテルを過ぎると、小学校があったので、ちょっと入ってみる。例によって正面には李舜臣立像と世宗大王座像がある。傍らには低学年用のちょっと変わった遊具や頌徳碑もある。
 さらに先に進むと、内湾の入口を跨ぐ橋があり、その向こうに漁港が見えてくる。なかなか大きい漁港のようで、ずらりと並ぶ船にはイカ漁用?のライトがぶら下がっている。敷地内にずらりと並ぶ青い蓋のある1辺2mほどのブロックにも興味をそそられたが、他のところに行く時間を考えて内湾沿いに引き返すことにした。
 途中に亀甲状溶岩の突き出た小さな岬があって、そこから海面越しの日出峰を仰ぐ。波がなければ逆さ日出峰を見ることができる撮影スポットである。そこから街に引き返し、バス停の時刻表を確認する。便が多いようなので、今はすべてのバスがここを通るのかもしれない。手頃な食堂も同時に探すがなかなかない。
 スーパーがあったので、今日の夜食を買うことにする。焼酎とバナナ牛乳、豆腐とスリムなじゃこてんをかごに入れる。日本の田舎町のスーパーとほとんど同じ雰囲気なのだが、土産物もしっかり置いてある。あまりにもださいゆえにミカンとトルハルバンのキーホルダーを買ってしまった。
 だいぶあたりも暗くなってきたので食事にしたいが、手頃な食堂がない。結局メインストリートのいかにも観光客相手の食堂に仕方なく入った。韓国風太刀魚の焼き物の写真があったので、それを指して「イゴイソヨ?」と言うと、主人は困ったような顔をした。どうも複数用のメニューらしい。それに出されたメニューを見るといかにも観光用のとんでもない値段である。仕方ないので手頃な値段のおすすめを聞いて、それ(写真)を出してもらった。なんかの魚の唐揚げあんかけがメインだが、ミッパンジャンも貧素でおまけに高い。さっき買ったスリムなじゃこてんもあったので聞くと、「おでん」という。どうも練り物をすべておでんというらしい。主人の愛想はいいのだが、やはり観光食堂は避けるべきであった。ちなみに店の中には溶岩にフウランとコケを付けたような置物がずらりと並んでいる。この置物以外は済州の溶岩は島外いっさい持ち出し禁止だそうだ。空気浄化の効果もあるらしい、いかにも東洋のおみやげであるが、日本人には売れないだろう。
 部屋に帰って大きい方をしていると、主人の呼ぶ声が聞こえる。すぐに出てみると、大家族が来たのでこの階の部屋をすべて借りたいので、上の階の部屋に移動してくれというのである。通された最上階の部屋は広いばかりか風呂もあり、正面に日出峰が見える。この民宿が日出峰に最も近いことを考えると、こここそが最良の部屋であろう。おそらくこの部屋はもっと高い料金なのだろうけれど、もちろんその請求はない。喜ぶべきであったが、使ったばかりのトイレのにおいがちょっと気になった。
 夜になって、地下のPCバンに行ってみた。カウンターで受付をしてパソコンを選ぶが、システムや勝手が分からない。でもとんでもない金額を取られることはないだろう。問題なのは、ハングル表記だ。ハングル表記の選択肢を何とかして、インターネットエクスプローラーを起動し、日本のHPを表示してみる。始め正常に表示されなかったが、日本語表示データのインストールを促す(と思われる)表示をクリックすると普通に表示されるようになった。しかし、自分のHPなどは文字化けしているので、HTMLを修正する必要があることがわかった。はじめは小学生が数人いただけだが、やがて20席くらいあるPCバンは小学生から高校生でいっぱいになってしまった。やっているのはほとんどがネットゲームである。時間が遅くなると、小学生は親が迎えに来る。バカ騒ぎするわけでもなく、ゲームを黙々とするする姿は日本の田舎町には見られないものである。
 2000wほど支払い、部屋に帰って風呂に入ろうとするが、水圧が低く結局浴槽の半分くらいしかお湯は出なかった。窓から見る正面の日出峰は、登山口の公園はライトアップされ、登山道沿いの灯りと、うっすらと山の輪郭が見える。

  H14.12.28-5