晋州城散策

 明日は朝から智異山に向かうので、晋州の街を見て回るのはこの日だけだ。もう陽もだいぶ傾いているので、宿をとるのは後にして、急いで晋州を見学をしよう。なんといっても晋州城周辺は観ておきたい。ターミナルからそのまま堤防に出て、川沿いに歩く。晋州城とその周辺の雰囲気は、日本によくある水郷といった感じである。河川敷は有料駐車場になっていて、散歩コースも整備されている。
 橋の下をくぐりると、目の前に晋州城の城門(矗石:チョクソン門:写真右)が見えてくる。川辺にはボート小屋があり、そこから多くの白鳥型の足こぎボートが川を周遊している。城門をくぐろうとすると、門番のようないったん制止させ、人が時計を見てから通してくれた。パンフレットによると、18時まで入場できるとなっている。
 城門をくぐると、目の前に矗石楼という大きな建物がある。この城は、この国では悪名高い加藤清正軍の攻撃で6万人の死者が出た(誇張?)激戦地である。そして絶景の川を見下ろす見晴らしのよいこの楼閣で、戦勝の酒宴が行われたという。サルスベリの花も満開でなかなか味のある宴会場である。この建物の裏に石の階段があり、そこを降りていくと城壁を抜ける小さな通路があり、そこから河畔に降りていけるようになっている。
 さっそくそこから降りていく。城壁沿いは地層もよく観察できる絶壁であるが、ここは大きな一枚岩がせり出しており、そこを降りていけるのである。その岩の先に有名な義岩(写真左)がある。例の祝宴の時に加藤軍の武将を誘い出した論介という妃生が、彼を道づれに身投げした伝説の岩である。ドラマ「土地」で主人公のキム・ヒョンジュが、ことあるごとに思いをはせた名所である。観光客も多いのだろう。岩の端には注意のために黄色い線が引かれてある。
 ここにも祠があるが、矗石楼の奥には彼女を奉った碑と義妓祠という建物がある。妖しくライトアップされた彼女の肖像画(写真右)などもあって、晋州で一番有名な人であることがよくわかる。しかし、その気概はわかるが、後先を考えない愛国者?が最も有名であるというのは、晋州という歴史のある城下町としては寂しい。
 城壁を左回りに歩いていく。鐘や石碑、古典的な砲台跡などを通り過ぎ拱北門に下る。ここは新しく再現された門で、町の中心部に向いて開いている。なだらかな丘になっている城内は芝で被われ、多くの市民が散歩をしている。拱北門の西にも建物のない門があるが、こちらは蔦で被われ放置されているようだ。近くの老木の下には多くの石が積み重ねられているが、これがここの信仰の形であろうか。そこから見晴らしのよい北将台に登る。ここにクマゼミの死骸(写真)が転がっていた。金粉をまぶしたような黒いこの蝉に関しては日本のクマゼミとほとんど同じに見える。
 左手の下に国立博物館を眺めながらさらに城壁に沿って歩くと、写真のように小さな砲台がある。やがて木々が茂るようになり、薄暗い中に小さな城門を見つけた。このあたりは東西に長いこの城の西端部に当たり、護国寺という立派な寺がある。そこから登り、最西端の西将台にでる。ここは特に景色がすばらしく、市の西部が一望に見渡せる。
 目の前に聖水橋があり、その前の河川敷に写真のような、なにやら柵で被われた50mほどの円形のグランドが見える。どうも闘牛場のようである。柵には旗が挿され、その向こうの橋の下にはカラフルな大道具がたくさんある。これだけ大きい闘牛場なら市民の大イベントなのであろう。その様子からこの日の前後に闘牛が行われていたようである。
 そのまま川沿いに城壁を歩くと、博物館に隣接して食堂がある。もうこの時間になると人もまばらになってきた。ここにも3・1独立運動記念碑があり、その横に写真のような個性的な鳩小屋がある。そのまま芝に被われた城内を散策し、拱北門から市外に出た。門の横には立派な便所もできている。

   2003 08/13