天地瀑布
やがて眼下のソンバン川の向こう岸に大きな駐車場と土産物屋が見えてくる。河口のあたりに下り、西帰浦魚港を左手に見ながら七十里橋を渡る。潮が引いた水鳥の群れる遠浅の河口は、掘ったらザクザクとアサリが捕れそうだ。満干の差が大きいのか、橋の近くの船は完全に干上がった魚で、傾いて腹を見せている。
橋より上流は静かな流れが緩やかに蛇行している。色とりどりの鯉が泳ぐのには興ざめだが、黄金色の葦原の小さな州や岸辺で小魚をねらっている白鷺の風情はいい。まだ朝早いためか車も少なく思ったより混雑していない。まだ滝は見えない。駐車場の端で2200Wのチケットを買うが、24歳以下の若者や軍人は半額である。川沿いの遊歩道には済州の石文化、トルハルバン、チョンナン等の説明板がある。また、昔の航海の検証に使われたテウという帆のついたイカダが二隻ある。道沿いの売店には、渋染め製品専門店があって興味を引く。突然開けたかと思うと大きなアワビステージのイベント広場になっていた。その背の崖は人の顔に見えると案内板には書いてあるが、普通の崖である。しゃれた石造りのトイレを過ぎると、やっと滝の音が聞こえてくる。
滝は段丘崖から二筋落ちていて、結構水量もあるが、日本の滝を見慣れた者には特にすごいというほどのものではない。滝壺の前が小さな広場になっていて、そこには名勝地と書かれたの碑と水飲み場といくつかのベンチがある。ベンチの傍らには救助用の浮き輪まで用意されている。写真屋のおじさんのパラソルもあって、スピーカーからはベートーベンのピアノソナタが流れている。しばらく朝日を浴びて、虹のかかった滝を眺めていると、客が増えてきだした。記念写真を撮る観光客がかける声(ハートゥーセ)が、ここで「123」であることにやっと気づいた。頼まれたアジョシのグループにわたされたカメラを向けて「ハナトゥルセ」と私も言ってみた。
天地瀑布への歩道は一部登りと下りが別になっている。下りは岸辺の道で、途中の広場には似顔絵を描く絵描きが何人かイーゼルを構えている。水力発電所跡を通り、大駐車場に戻ったのは昼前で、客も増えてきた。私は土産物屋でマッコルリを買って、来た道を引き返す。何の表示もないバス停の横には、潜水艦観光のパネルがある。
昼時なので、そこから歩いて1kmほどの食堂「海宮味楽」へ行くことにする。太刀魚料理の有名な店だそうだ。私の家も太刀魚漁の盛んなところにあるので、太刀魚のスープ「カルチク」とやらに興味を持ったのだ。途中「按摩しじゆつしよ」という日本語の大看板のビルが見える。いったい何なのだろうか。
「海宮味楽」は、外装こそごてごてしているが、中は一般の海鮮食堂で、壁にはいろんな人のサインが飾ってある。早速カルチクを頼むと、まず、大きな白い紙をテーブルいっぱいに広げる。そのうち料理が出たが、写真でも分かるように大きなチジミもあって、結構ボリュームがある。期待していた太刀魚のカボチャスープは正直なところ生臭くて、これでは日本人の多くはいやがるだろうなという代物だった。後から来た労働者風のグループの食事風景を見ると、骨などはばんばんテーブルにまき散らしている。白い紙はそのためのものだったのだ。さらにお行儀が悪いのか、スープ以外はみんなチョッカラを使っている。
12時半頃、おなかいっぱいなのと、マッコルリのせいでボーとした気分で食堂を出て、次の観光地、正房瀑布に向かう。
H14.12.28-2