雪嶽山上部の尾根登り
小屋の前の沢に一度降りて鉄橋を渡ると、正面に鉄階段がドンとある。なかなか急な傾斜の長い階段が続いている。この階段がなければズルズルの地獄の急坂になるだろう。途中、荷物を持たない若い女の人に2人であった。韓国の若い女性は美しくなることに徹底していると聞くが、街中だけでなく、山にもさらさらの髪でさっぱりした軽装の若い女性が多い。例によって愛想は悪いが、その格好は浮いて見えるだけでなく、山での活動にはその髪は、私にさえうっとうしく感じられる。さらにこんなに山奥で一人でいったい何をしているのだろう。日本の登山道(数時間も奥にはいると)では、山歩きの格好の人以外に出会うことはまずないが、とにかく韓国の登山道では、いろんなパターンの人に出会う。登山道がそれほど危険でないこともあるのだろうが、さらにこの後知ることになる「いかなる時間帯も」ということを重ねて考えると、日本の登山指導者が指導している山歩きの常識とは食い違うことが多い。
尾根伝いの急坂は、その高度をグングン引き上げる。標高1050mくらいの小屋から、めざす小青峰までは一気に500m近くの高度差である。膝のことも心配なので、無理することなく休み休みゆっくりと登っていく。そのうち樹木の背丈が低くなり、ダケカンバが目立つようになると、山頂部はもう少しである。
17:05、雪嶽山の肩である小青峰の小ピークに飛び出す。ここで竜牙長城稜からの登山道と合流し、幅30m程の広場になっている。後は中青峰を越えれば、今日宿泊予定の中青避難小屋だ。少しガスがかかり、それほど天気はよいわけではないが、まわりの山は見え隠れしている。やがて正面の中青峰がはっきり見えてきた。山頂に2つの大きな白いレーダーがあるのでよい目印になる。北緯38度を超えたこの山の上のレーダーは、軍事的には重要な意味を持つだろうが、ことが起これば真っ先に攻撃対象になる可能性もある。左右に大きく裾を広げた中青峰の姿は、今までの渓谷美の山とはまったく違った印象の雪嶽山を見せる。地図では、まっすぐ中青峰の山頂を越えて、下った鞍部に小屋があることになっている。標高は1600m程度なので、高度的には森林限界ではないようで、背丈は低いながら樹木もびっしりと茂っている。やがて、登山道は左にそれ、中青峰をトラバースするような道となる。一応まっすぐ頂上に向かうような道らしきところもあったが、鉄条網付きの通行止めがしてある。やがて左手にピラミダルな山が姿を現した。雪嶽山の最高峰大青峰である。避難小屋がちゃんと泊まれるところなのか、ちょっと不安もあったが、山頂部までせっかく来たので、そのまま歩いていく。日本の山では稜線とはいえ5時を過ぎてまだ行動中の登山者と出会うことはほとんどない。3時頃には山小屋に着くのが一般的である。いざとなればどこでも野宿する事が怖くないし、日没前後の山の美しさをよく知っている私には6時頃まで行動するのは平気だが、ここではもう6時だというのにどんどん登山者とすれ違う。それも重・軽装、老若男女にかかわらず、大集団さえある。やがて足元に小屋が見えてきた。立派なログハウスの小屋である。小屋から上の大青峰へは、樹木も少なくまっすぐ登山道が延びている。
2002' 8/25