犬料理

 犬料理は、中国と韓国朝鮮では食の文化のひとつである。私も含め日本人にとって、これは相当抵抗がある食文化である。しかし同じ東アジア人として、この文化を知らずして食を語るわけにはいかない。その国固有の食文化(例えば鯨食)を非難されることへの憤りを知っている私たちは、自分の国の嗜好とものさしで、他の国の食文化をはかることの愚かさも知っている。ホテルを出るときに犬料理が食べられる店をフロントで 聞いた。それによると、店の名前はわからないが、国際市場の西の区画にあるという。おおよその地図も書いてもらった。犬料理は国際的なものさし?で野蛮とされ、ソウルオリンピックの時にソウルの表通りからその名が消えたという。フロントで教えてくれた犬料理を表すという「ヨンヤンジャン」(栄養窓?)という言葉も、アジア大会をひかえている釜山の方便か。しかし、教えられたとこに行って、それらしきところをぐるぐる回ってメニューを見るが、「ヨン」の文字すら見つからない。
 いいかげん「トウチュゲゾソ...」な状態なので、ついにあきらめて、とりあえず土産でも買いに行く。向かったのは国際市場の中心にある「ひまわり食品」である。食品関係の土産が豊富なので有名な店で、店長は日本語も堪能である。ひらがなのその屋号の店は、すぐに見つかった。店の奥で見つけたビールを買ってまずそれを飲み干し、一息つく。生き返って、小さいながらいろんなものがある店内をみてまわる。そして、土産は、本が結構重いので、軽くて誰でも使えるものということで、竹塩をまぶした韓国海苔(3袋セット1500w×4)を購入した。
 ついでにダメもとで、日本語が話せる主人に犬料理が食べられる店を聞いてみた。すると主人は、知っているという。そしてこの近くにあるので、そこに案内するという。さっそく主人は私を連れて店から少し北に向かい、右に折れ、人が一人やっと通れるような路地に入る。途中、主人は「私たちが犬を食べることを野蛮だという日本人もいる。しかし、日本人は馬を食べるが、私たちは食べることはない。」と文化の違いについて言っていた。..こんな所に店が...と思わすような所を通り、一般の民家のような所に入っていった。これでは、知らない人はまず見つけられないだろう。その店の女将は、の弱そうなうつむき加減の口数の少ないアジュマであった。ひまわりの主人は「スベ」を頼んで、帰っていった。その間、店には誰もいない状態だったはずだ。辞書で調べると「水鬼」という意味でよく分からない。
 まず、何かの青葉(香りも味も淡泊な、シソの葉のような食感の葉)をざくざくに切った薬味を入れた小さな籠と、そして塩胡椒のようなもの、2種類のコチュジャン、青唐辛子、オニオンスライスと共に、蒸した?臓物が出てきた。おしぼりと割りばしも共に出てきたということは、日本人も誰かの紹介で多く訪れるということなのだろうか。私はソジュも頼み、腹を決めて食べるぞと意気込む。
 ひまわりの主人に頼まれたらしく、アジュマは食べ方も指導してくれる。濃い方のコチュジャンに青葉の薬味をたっぷり入れ、よく混ぜてそれをつけて食べろと手振りで教えてくれる。正直な印象は「生臭い!」である。そして、ぷりぷりした腸はまだ良いが、腎臓などはそのままの形なので、視覚的にもちょっとつらいので、流し込むように食べることになる。小学生の頃、残されて食べさせられた給食を思い出す。生の青唐辛子とタマネギは薄い方のコチュジャンに漬けて食べるらしい。これもちょっとえぐく、口直しにはならない。
 臓物を半分くらい食べたところで、やっと肉が出てきた。といっても、それは刺身のように切った肉で、皮もついていて生々しい。肉に油分は少なく、ちょっとしつこい鶏肉という感じである。臓物よりはましだが、お世辞にもおいしいとはいえない。次にスープとご飯が出てきて、アジュマは残った肉とご飯をスープにいれ、これで食べろと言う。これがいわゆるポシンタンなのだろうか。このたっぷりと犬でだしをとったスープも生臭く、ご飯の分、いくらかマイルドになるが、ちょっとしんどい。ソジュとの相性も悪いみたいでむかむかしてきた。しかし日本人の食事のマナーの悲しさで、全部何とか食べる。
 料理が11000w、ソジュが2000w計13000wを支払い出る。結構もうかっているらしく、冷蔵庫もでかい新型が二台ある。アジュマには脂汗を隠し、笑顔で「チャルモゴスミダ」を言ったが、むかむかするので、這うように大庁路を国際フェリーターミナルに向かう。そしてついに道路の横の溝の中に少しもどしてしまった。国によっては罰金ものだろうが、人目はなかったようだ。

   2002' 8/29