天王峰からの下山
写真のように頂上部には学生の集団なんかがいて騒がしいので、そのまま縦走路を西に移動することにする。少し下ったところにある三角点を通過し、西部から山頂部岩峰を観察する。今日下山するのであれば、そうゆっくりもしていられない。何枚か写真を撮って稜線を西進する。徐々に下っていくと眼前に尖鋒が立ちはだかる。その峰をトラバースする。
岩の間の鞍部にはお花畑が広がり、シオガマやトリカブト、シシウドの他様々な高山植物の花が、右の写真のように咲き乱れている。表土が流れないように、石が敷いてあったり水処理のための排水路などの工夫もされている。
しばらく歩くとのどかな草原のような登山道になる。登山道は山頂部を巻いているが、その登山道沿いに立つチェソク(帝釈)峰の道標に16時に着いた。山頂といった雰囲気ではないが、草原の中の趣のある風景である。でところどころに立ち枯れの木もあるが、高山植物もみられる。その草原の峰をどんどん下っていくと、下りきった鞍部に山小屋が見えてくる。この山域で最も高い標高1750m地点に立つチャントモク山荘である。
16時20分、山荘に到着。チャントモク山荘は、国立公園管理公団が営業するいくつも棟のあるよく整備された百名収容の山小屋である。稜線上の景色の良さの他、最高峰天王峰に最も近いということで、人気の山小屋らしい。多くの人が休憩したり食事をとっている。さて、これからどうするか。下山するか、さらに縦走して、300人収容の細石(セソク)山荘まで行って無理矢理宿泊をお願いするか、夏だから夜通し縦走するか...。若いときなら2000m以下の縦走路のはっきりした山なので、岩陰で休みながら縦走する場面だっただろう。しかし、今回の山行は、これから馬耳山、徳裕山、カヤ山を踏破するハードな計画である。後の山行のために、無理をせず下山することを決意する。しかし、明るいうちには「ペクム洞」の集落まではたどり着けないだろう。道標の距離で5.8km、地図の行程時間は3時間となっている。さらにもう一つの地図を見ると、テリム滝を経由する遠回りのコースも書かれている。道標ではそっち方向の指す道は一本しかないから、もし遠回りのコースなら、到着は深夜になる。ちょっと不安がよぎったが、日本と違って韓国の登山道は基本的に整備されていて、ライトでも迷うことはないだろう。
ガクアジサイがきれいな下山道を、時折なっている野イチゴを摘んで食べながら下る。後ろを振り返ると山荘のある鞍部がよく見える。立派な木道を通り、笹の道を抜けると、目の前に大岩がそそり立っている。マン岩という大岩に17時20分着。ここまで来ると、滝への道ではないことはわかる。尾根を下っているので、天王峰や燭台峰からチャントモク山荘までの景色はよく見える。枝の豪快に曲がったカバの木を超えて、しばらく行くと「ソジ峰1312m」の表示の道標に18時7分に着いた。ここからペクム洞までは3.0kmで、約半分は下ったことになる。
ソジ峰からの下りは樹木こそあれど急なガレで、綱は張ってはいるがつま先が痛くなってきた。下りきったチャムセムというところに小さな屋根付きの白い箱がある。登山届け用の箱のようなので、下山はあらかた終わったのかと思ったが...。近づいてみると白十字のマークがある。なんと救急用品が入っているではないか。これは登山者を気遣ったありがたい装備である。日本の山にはまずこんなものはない。しかし、山には入る者は、救急用品は必ず準備するという常識はできないだろう。
2003 08/14